EOS Kiss M
抜群の知名度と人気を誇るキヤノンのEOS KissシリーズのラインナップにミラーレスのEOS Kiss Mが加わったことは、この春のカメラ市場で起きた事件のひとつと言える。あるいは、もうひとつパッとしない印象しかなかったEOS Mシリーズに対して、キヤノンが本腰を入れる気になったらしいことのほうが影響としては大きいかもしれない。
それはさておき、現行のEOS Mシリーズ、つまり、EOS Kiss Mを含むキヤノンのミラーレスカメラのラインナップを見てみると、最上位がEVFを内蔵したEOS M5で、発売当初の実売価格は税込で12万円強(ボディのみ)だった。次いでファインダーレスのEOS M6が10万円ほど。そして、ニューモデルのEOS Kiss Mが8万円ほどで、ローエンドのEOS M100が5万8,000円ほどという順番だ。
ようは、EOS Mシリーズの中のEOS Kiss Mの位置づけは3番手でしかないのである。
にもかかわらず、映像エンジンには最新のDIGIC 8が搭載されており(画像処理や高感度の部分で優位となる)、AFや連写のパフォーマンスも向上しているほか、4K動画にも対応。さらにバリアングル液晶モニターの装備など、スペック的にほぼひとり勝ち。いわゆる下克上状態だ。
そういうわけで本稿では、「EOS Kiss Mのここがすごいぜ」ポイントと、既存の上位2機種の「この部分に値打ちがあるんだ」ポイント、およびローエンドであるEOS M100の「意外と狙い目かも」ポイントを、スペックなどをとおしてチェックしていくことにする。
EOS Kiss M
EOS Kiss M
まずは、期待の新人、この3月に発売されたばかりのEOS Kiss Mから紹介する。「Kiss」の名を冠することからも明らかなように、本機はレンズ交換式のシステムカメラ入門者をおもなターゲットにしたエントリーモデルだ。
ボディ単体のほか、標準ズーム付きキット、望遠ズームも付いたダブルズームキット、高倍率ズーム付きキット、標準ズームと単焦点レンズが付いたダブルレンズキットという5種類のそれぞれにブラックとホワイトの計10種類のラインナップとなっており、販売店の在庫管理が大変そうである(まあ、一時期はトリプルズームだの、クリエイティブマクロだのまであったから、それに比べれば多少平穏なのもしれないが)。
既存の3機種との最大の違いは、画像処理を受け持つ映像エンジンが最新のDIGIC 8に変更されている点だろう。デジタルカメラにおいて、エンジンパワーの向上は画質やスペックに大きく影響するからだ。
AFまわりを見ると、デュアルピクセルCMOS AFなのは同じだが、測距点のカバーエリアが、従来(左右80×上下80%だった)よりも広がって、左右88×上下100%となった。また、測距点数も最大143点(左右13×上下11点配置)に増えている(1点AF時はもっと細かく選択できる)。現時点では、対応レンズがEF-M 18-150mm F3.5-6.3 IS STM、EF-M 55-200mm F4.5-6.3 IS STM、EF-M 28mm F3.5 マクロ IS STMの3本だけにかぎられるが、AF撮影でのフレーミングの自由度が向上したのは強みだ。
なお、EF-M 11-22mm F4-5.6 IS STM、EF-M 15-45mm F3.5-6.3 IS STM、EF-M 18-55mm F3.5-5.6 IS STM、EF-M 22mm F2 STMの4本では、左右80×上下80%の範囲で99点(11×9点配置)測距となる。
新しく瞳AFが追加されたのも見逃せない。サーボAF(コンティニュアスAF)に対応していないのは少々残念だが(個人的には、ゾーンAFや1点AFでは顔・瞳検出が使えないというのも不満に感じる点だ)、自動的に近いほうの目を選択する仕様で、かつタッチ操作でピントを合わせたい目を選べるようになっているのは便利だと思う。
スペックにはあらわれない部分では、オートライティングオプティマイザの強化もある。顔検出と連動することで、人物の顔の領域内の白飛びを軽減。輝度の高い部分の階調再現も向上していると言う。これにともなって、逆光時の露出制御が、従来よりやや明るめに調整されるようになり、人物の顔が暗くなりにくくもなっている。
また、撮像センサーからの映像情報を利用してブレの量を判定、これを利用して手ブレ補正の効果をアップするデュアルセンシングISも搭載された。対応レンズはEF-M 15-45mm F3.5-6.3 IS STM、EF-M 18-150mm F3.5-6.3 IS STM、EF-M 55-200mm F4.5-6.3 IS STMの3本のみだが(ファームウェアのアップデートが必要)、手ブレ補正効果が0.5段分ほどアップするという。
連写スピードも、AF追従で約7.4コマ/秒、ピント固定で約10コマ/秒に高速化している。これはEOS MシリーズでもEOS Kissシリーズでもトップの数字となる。なお、連写可能な枚数は、JPEGラージ/ファインで約33枚、RAW(C RAWの可能性がある)では約10枚となっている。
RAWのファイル形式が「CR2」から「CR3」に変更され、新しくファイルサイズの小さな「C-RAW」が選択できるようになった。通常のRAWと比べるとやや画質は低下するものの、連写可能枚数の増加やバッファメモリーが解放されるまでの時間の短縮、撮影可能枚数の増加といったメリットもある。
そのほか、4K動画への対応や拡張感度H(ISO51200相当)の追加、作動音のない電子シャッターを使うサイレントモードがシーンモードに加わったこと、初期設定のメニュー表示がシンプルな「かんたん」モードになったなども新しい部分だ。
なお、バッテリーの持ちは、エンジンのパワーが上がったことが影響しているのか、ほかの3機種(295枚)に対して本機だけが235枚と減少している。
EOS M5
EOS M5
EOS Mシリーズの最上位モデル。ボディカラーはグラファイトのみで、ボディ単体のほか、標準ズーム付きキット、高倍率ズーム付きキットが用意されている(以前は高倍率ズームとマクロレンズが同梱のクリエイティブマクロダブルレンズキットもあったが、こちらは販売終了となっている)。
EVFは236万ドット。倍率は公表されていないが、おそらくそれほど高い数字ではないはずだ。液晶モニターはひとまわり大きな3.2型(3型に比べると対角線長が5mmほど大きい)。また、解像度も162万ドットと高精細だ。ほかの3機種は3型、104万ドットなので、スペック面では優遇されている。加えてEOS Kiss MにはEOS Kissシリーズで標準的なバリアングル式が採用されているが、ほかはチルト式だ。本機のものは、上向き85度、下向き180度まで動かせて、自分撮りにも対応できる。
AFはデュアルピクセルCMOS AF。測距点数は49点で、カバーエリアは左右80×上下80%となる。AFモードは任意選択となる1点AFのほか、顔検出+追尾優先AF、スムーズゾーンAFがある。
ちなみにキヤノンのウェブサイト上では、EOS Kiss Mには「瞬間オートフォーカス」という表現が使われているが、ほかの3機種は「高速AF」ないし「高速オートフォーカス」で、この言葉のチョイスに速さの違いがあらわれているようにも見受けられる。
手ブレ補正機構は、静止画撮影時はレンズ側のみだが、動画撮影時は電子式の5軸補正を併用するコンビネーションISを備えている。連写パフォーマンスはEOS Kiss Mよりやや下まわり、最高速はAF追従で約7コマ/秒、ピント固定で約9コマ/秒。連続撮影可能枚数はJPEGラージ/ファインでは約26枚と少ないが、RAWでは逆に約16枚と多くなる。RAWで連続的に撮る機会が多いならEOS Kiss Mより有利となる可能性がある。
動画はフルHD/60p。EOS Kiss M同様、バッテリーは容量1,040mAhのLP-E17(EOS Kiss MはLP-E12を採用する)で、CIPA基準の撮影可能枚数は295枚だ。
EOS Kiss Mに対して優れている点としてあげられるのは、操作性の部分だろう。EOS Kiss Mは一眼レフのEOS Kissシリーズのインターフェースを踏襲しており、電子ダイヤルはひとつだけで、露出補正の操作はボタンとダイヤルを併用する。一方、本機は上面に2つの電子ダイヤル、背面にコントローラーホイールを持ち、露出補正は専用ダイヤル式で、カメラ慣れしている人にとってはずっと使いやすい。
また、ボタンとサブ電子ダイヤルの操作でさまざまな機能の設定が変えられるダイヤルファンクション機能もおもしろい。三脚撮影時のブレ防止やバルブ撮影時に便利な有線リモコン用の端子を備えているのもありがたい点だ。
EOS M6
EOS M6
フラットトップのファインダーレスタイプで、外付け式の電子ビューファインダーEVF-DC2(税別2万5,000円)を装着することが可能だ。ボディカラーはブラックとシルバーの2色から選べる。
原稿執筆時点での税込実売価格はボディ単体が8万6,880円で、これはEOS Kiss Mよりも高いが、15-45mm付きキットでは逆転して9万4,450円と少し安くなり、高倍率ズームの18-150mm付きキットでは10万6,880円(2万5,420円安)、15-45mmと55-200mm付きのダブルズームキットは9万7,650円(2万2,100円安)となる。ファインダーなしでいいならお買い得感は高い。なお、EVF-DC2の実売価格は税込2万1,770円程度なので、そのあたりもきちんと考慮するべきだろう(発売当初に数量限定でEVF付きキットも用意されていた)。
ちなみに、EVF-DC2は解像度が236万ドット(例によって倍率は公表されていない)、重さは29gだ。
本機はEVFを内蔵していないぶんコンパクトサイズで、高さはEOS Kiss MやEOS M5より2cmほど低いし、奥行きも小さい。携帯性を重視するなら有利となる。液晶モニターは上向き180度、下向き45度の範囲で動かせるチルト式で自分撮りにも対応可能だ。
AFまわりのスペックはEOS M5とほぼ同じ。5軸補正の電子式手ブレ補正を併用するコンビネーションIS(動画撮影時のみ)も備えている。連写最高速はEOS M5と同じくAF追従で約7コマ/秒、ピント固定で約9コマ/秒。連続での撮影可能枚数はJPEGラージ/ファインでは約26枚で同じだが、RAWは1枚多い約17枚となっている。
動画はフルHD/60p。ステレオマイクを内蔵しているほか、外部マイク端子も備える(EOS Kiss MとEOS M5も同じ)。バッテリーはEOS M5と同じくLP-E17(容量1,040mAh)で、撮影可能枚数は約295枚。有線リモコン端子もある。
シャッターボタン外周にメイン電子ダイヤル、上面の露出補正ダイヤルの下にサブ電子ダイヤル、十字キーを兼ねたコントローラーホイールを備え、カメラ慣れした人にはわかりやすい操作系となっている。EOS M5にあったダイヤルファンクション機能は省略されている。
EOS M100
EOS M100
ローエンドを受け持つモデルとは言え、デュアルピクセルCMOS AFが可能な有効2,420万画素デュアルピクセルCMOSセンサー、映像エンジンDIGIC 7などは上位モデルと同じ。その点ではお買い得品と言える。
ボディカラーはホワイト、ブラック、グレーの3色があり(数量限定でリミテッドピンクも発売された)、それぞれにボディ単体(4万7,570円)、レンズキット(6万9,490円)、ダブルズームキット(8万0,780円)、15-45mmと22mm F2が同梱されるダブルレンズキット(7万8,860円)の計12種類のバリエーションがある(こちらも在庫管理が大変そうである)。実売価格はEOS Kiss Mに対して2万6,000円〜3万9,000円ほど安い。このお値段で位相差検出AFが使えるミラーレスカメラ、という狙い方はあるかもしれない。
本機はアクセサリーシューを備えておらず、したがって外付けのEVFなどにも対応していない。液晶モニターは3.0型チルト式で、上方向に180度まで動かせる(下方向には向けられない)。もちろん、自分撮りにも対応できる。
49点測距で画面の左右80×上下80%をカバーするデュアルピクセルCMOS AFはEOS M5、EOS M6と共通。1点AF、顔検出+追尾優先AF、スムーズゾーンAFが選べるのも同じだ。
ただし、連写スピードはAF追従で約4コマ/秒、ピント固定で約6.1コマ/秒と遅め。そのぶん、連続で撮れる枚数は多くなるが、積極的に動体撮影を楽しむカメラという印象ではない。
フルHD/60pの動画撮影時のコンビネーションISは備えるが、角度ブレ+ロールブレの3軸補正となる(ほかはシフトブレにも対応する5軸補正だ)。電源はEOS Kiss Mと同じLP-E12(容量875mAh)だが、撮影可能枚数は約295枚と多めだ。
ローエンドモデルらしく操作系はシンプルで、電子ダイヤルはひとつだけ。ホイールもなしである。露出補正操作は十字キーの上ボタンと電子ダイヤルを併用する方式で、一眼レフのEOSを使っている人がサブカメラに……というのには面倒くさく感じられるだろう。
まとめ
世間では「残りものには福がある」と言うが、カメラに関して言えば、「新しいものにこそ福がある」のほうが近い気がする。
ぶっちゃけた話、AFまわりのスペックを見ただけでも、選ぶべきはEOS Kiss Mだと思える。測距点のカバーエリアが広がっていること、瞳AFが使えることもあるし、オートライティングオプティマイザの性能向上による白飛び軽減なども見どころだと思う。発売されたばかりなのに十分お買い得感のある実売価格も魅力的で、しかもEVFやバリアングル液晶モニターまで備えている。小さなお子さんがいる家庭ではサイレントモードの追加もありがたいだろうし、4K動画機能も見逃せない。
ただ、操作系については上位2機種にかなわない。EOS M5とEOS M6には専用の露出補正ダイヤルがあるうえに、電子ダイヤルも2つあって、露出コントロールははるかに容易に行なえる。スペック面でEOS Kiss Mに劣る部分があるのが気にならないならという条件付きだが、サブ電子ダイヤル付きの一眼レフEOSのサブカメラとして選ぶならこの2機種だろう。
一方、軽快かつカジュアルに楽しみたいならEOS M100も選択肢に入る。ほかの3機種と比べると物足りなさもあるが、ファインダーレス、グリップレスでかさばらないうえに、薄型単焦点のEF-M 22mm F2 STMとの組み合わせで407gの軽さは普段使いにはよさそうに思う。9種類のバリエーションが楽しめるフェイスジャケットがあるのも楽しい点だ。