2018年は、いわゆるミラーレスカメラと呼ばれるシステムの誕生から、ちょうど10年になる。2008年に登場したミラーレスカメラ1号機が、パナソニックLUMIX G1だ。その記念すべき10年目となる2018年に発売されるのが、LUMIX Gシリーズのハイエンドモデル、LUMIX G9 PROだ。
しかしLUMIXのハイエンド機には、スチル写真だけでなく動画機能にも特化したLUMIX GH5がある。G9 PROは、動画機能よりも写真を重視したハイエンド機なのだ。GH5とG9 PROは、ダブルハイエンドとしてLUMIXを牽引する。
動画機能が強いGHシリーズは、G1のすぐ後に登場したGH1から始まり、現行のGH5までLUMIXのハイエンド機としてラインナップ。方やGシリーズは、G1とG2まではGHと同クラスだったが、G3からエントリークラスに移された。G7とG8ではミドルクラスになったが、GHよりは下位だった。
では、なぜGシリーズ8代目となるG9 PROは、再びハイエンド機に格上げされたのか? パナソニックによると、GH5はハイアマチュアからプロにも好評だが、やはり動画を活用するユーザーが多いとか。だが高画質の写真が撮れる実力は持っている。
ところがスチル写真がメインの人からは、GH5ほどの動画機能は必要ない、という声も聞かれた。そこでスチル写真がメインのハイエンド機も誕生させた。それがG9 PROだ。名前に「PRO」とつけたのも、プロユースを意識していることがうかがえる。なお型式名は「DC-G9」だ。G9 PROはG8の後継機というより、全く別物と言えるだろう。

※掲載した個体は最終品ではないため、一部外装が製品版とは異なります。
ライバル
ライバルはOLYMPUS OM-D E-M1 Mark II、もしくはFUJIFILM X-T2だろう。特にE-M1 Mark IIは同じマイクロフォーサーズシステムで実売価格も近い。これは大きく悩みそうだ。
またもう1つのLUMIXのハイエンド機、GH5と迷う人も多いかもしれない。スチル写真の機能と動画機能のどちらを優先させるかがポイントとなる。
ボディデザイン
デザインはLUMIX GH5やG8と同じ流れを汲むが、より直線的でシャープな印象だ。特に一眼レフカメラでいうペンタ部の形は特徴的。これを見ただけでG9 PROとひと目でわかる。
またモードダイヤルの赤いリングもアクセントになっている。この赤いリングは、写真家のパッション(情熱)を表現しているとのこと。パナソニックの「写真」に対する意気込みが伝わってくる。そして前面には、シンクロターミナルを備えているのもプロ仕様機らしい。
本体はマグネシウム合金製。表面は漆黒塗装が施され、重厚感のある仕上がりだ。GH5を凌ぐほどの高級感で、手にする歓びも大きいだろう。しかしハイエンド機だからと大柄にはならず、GH5よりわずかに小さい。また重さもGH5より70gほど軽くなっている。
とはいえグリップは大きく、形状も握りやすい。さらに右手の親指が背面部にしっかり掛かり、安定感がとても高い。このホールディングの良さは、非常に好印象だった。

G9 PROには専用のバッテリーグリップDMW-BGG9が用意されている。縦位置シャッターボタンをはじめ、前後ダイヤルやジョイスティック、ISO、WB、露出補正ボタン、AE/AFロックボタンも備えているので、横位置と同じ感覚で縦位置撮影が可能だ。
また、望遠レンズや大口径レンズ使用時にホールド性が向上する。さらに本体と同じバッテリーが入るため、長時間の撮影や大量の撮影にも有効だ。本体と同じく防塵・防滴・耐低温構造により、過酷な環境でも安心して撮影できる。
バッテリーグリップを装着したところ
バッテリーグリップを装着したところ

操作部
ボディ上面の右側はGH5と同様に、前ダイヤルの後ろにWB、ISO、露出補正のボタンが並び、さらに動画ボタンを装備する。
大きく異なるのが電源スイッチだ。これまでLUMIX G、GH、GXの各シリーズは、モードダイヤルと同軸に電源スイッチがあった。しかしG9 PROはシャッターボタン側に移った。この位置は他社でもいくつか採用しているレイアウトなので、馴染みやすい人も多いだろう。カメラをホールドしたまま電源操作ができてスピーディーだ。またONからさらに回すと、ステータスLCDの照明になる。

LUMIXで初めて上面に装備されたステータスLCDもG9 PROの大きな特徴だ。これで撮影情報が単独で確認できるようになった。
表示されるのは、WBや測光、ISO、絞り値、シャッター速度、露出補正、画質モード、バッテリー情報、SDカード情報など。限られたスペースにこれだけの情報を表示させるので、やや文字が小さく煩雑な印象もあるが、視認性は決して悪くない。

これまで右側に配置されていたモードダイヤルは、ステータスLCDの採用により左側に移った。P、A、S、Mモードの他、全自動のiAやクリエイティブコントロール、クリエイティブ動画、3つのカスタムモードを持つ。
そしてモードダイヤルと同軸にドライブモードダイヤルを装備。連写は2種類あり、ひとつに高速連写、もうひとつにプリ連写、など7つの連写モードから割り当てができる。さらに6K/4Kフォトモード、フォーカスセレクト/フォーカス合成モード、セルフタイマー、インターバル撮影が並ぶ。

背面右側はGH5に近い。コントロールダイヤルやジョイスティックを装備しているのも同じだ。ジョイスティックはダイレクトフォーカスの他、Fnで割り当てた機能、メニュー表示、機能なしが設定できる。
背面右側ボタン群アップ
Fnボタンは2つあり、Fn1はフォーカスモードがデフォルト、F2はクイックメニューがデフォルトだが、他の機能に変更も可能だ。

背面左側はFn3ボタンと再生ボタンの2つのみ。Fn3ボタンは、デフォルトではLVFの切り替え。ファインダー/背面モニターの自動切り替え、ファインダーのみ、背面モニターのみ、が選択できる。またFn1やFn2と同様に、別の機能に割り当ても可能。OFFも合わせれば70種類もの機能から選べる。
背面左側ボタン群アップ

正面はグリップ側の上からFn4ボタンとプレビューボタン(Fn5)。レンズ取り外しボタンの下はファンクション(Fn)レバーだ。
プレビューボタンはFnボタンとしてFn4ボタンと同じく機能の割り当てが可能。FnレバーはMODE1とMODE2があり、MODE1はFn機能の無効、MODE2は割り当てたFn機能を有効するポジションだ。
MODE2に割り当てができる機能は、オートフォーカスモードやフォトスタイル、ブラケットなど、OFFも含めて17種類。デフォルトではサイレントモードが割り当てられている。被写体や撮影スタイルに応じてワンタッチで切り替えができる便利なスイッチだ。

撮像素子と画像処理関連
撮像素子は有効2,030万画素Live MOSセンサー。ARコートが施され、センサー面の反射によるフレアを抑制。光学ローパスフィルターレスなので、高精細な仕上がりが得られる。
また高速読み出しによりローリングシャッター現象を抑え、電子シャッターでも動体撮影に強い。そしてヴィーナスエンジンにより優れた解像力と高感度特性、そして自然な色再現性も得られる。
色モアレの除去や新3次元色コントールなど、画質は基本的にGH5を踏襲。ISO感度もISO200(拡張ISO100)~25600で、やはりGH5と同じだ。しかしダイナミックレンジはより広がり、ハイライトの再現性がアップした。先代ハイエンド機のGH4と比べると、約25%も拡大されている。

AF
AFは225点測距やDFDテクノロジーなどGH5を踏襲。しかしAFは世界最速となる約0.04秒を実現。より一瞬に強くなった。
そして新たに人体認識機能を搭載した。これまでの顔認識や瞳認識では難しかった後ろ姿や顔が隠れたシーンでも人物の認識が可能になっている。また複数人物がいるシーンでも、タッチ操作で人物を選択でき、その人物が後ろを向くようなシーンでも合焦しやすい。
さらにAFポイントスコープ機能を搭載。合焦したポイントを拡大することで、詳細なピント確認や被写体の観察ができる。野鳥や動物など超望遠レンズの撮影に便利だ。

連写性能
連写はメカシャッター時こそ、GH5と同じAF追従約9コマ/秒、AF固定約12コマ/秒。しかし、電子シャッターでも約9コマ/秒と約12コマ/秒と変わらないGH5に対し、G9 PROは電子シャッター時にAF追従で約20コマ/秒、AF固定では約60コマ/秒の超高速連写が可能だ。
G8も超高速連写時は約40コマ/秒も可能だが、それを大幅に上回っているのはハイエンド機らしい進化だ。
シャッターボタンを押すとさかのぼって記録するプリ連写機能も搭載。AF-S/MFでは最大24コマ、AF-C/AFFでは最大8コマさかのぼっての撮影ができる。昆虫が飛翔する瞬間のように、いつチャンスが訪れるかわからない撮影に威力を発揮する。
手ブレ補正
手ブレ補正も強化された。GH5とG8では、ボディ単体だと焦点距離60mmでシャッター速度5段分。レンズ内手ブレ補正と組み合わせたDual I.S.2にすると140mmでも5段分の効果が得られた。
だがG9 PROは、ボディ単体では60mmで6.5段、レンズ側も合わせたDual I.S.2では140mmでも6.5段を実現。暗所や超望遠レンズの使用時に軽快な手持ち撮影が行える。
ファインダー
EVFは約368万ドットのOLEDファインダー。解像度はGH5と同じだが、ファインダー倍率はGH5の0.75倍に対しG9 PROは0.83倍(35mm判換算)に大きくなり、視認性がアップした。
アイポイントも21mmあるので眼鏡をしている人も、広々としたファインダーを楽しめる。またV.MODEボタンを押すと、標準の約0.83倍の他に約0.77倍と約0.7倍の切り替えが可能。撮影スタイルに応じた倍率が選択できる。
デザインもGH5やG8のアイピースが角張った形をしているのに対し、G9 PROは丸型でハイエンド機らしい雰囲気だ。

ファインダーのアイカップは標準でも大きいが、さらに遮光性を高めたい人には大型のアイカップDMW-EC4もオプションで用意されている。EVFに集中して撮影したい人におすすめだ。ファインダーが進化したことも、G9 PROがスチル写真にこだわっているのを感じる。
オプションのアイカップDMW-EC4を装着したところ

液晶モニター
背面モニターは、パナソニックではすっかりお馴染みになったフリーアングル式。G8と同じ約104万ドットの液晶表示だ。GH5の約162ドットと比較すると少なく感じるが、実用上は全く気にならない。
本体横にせり出すフリーアングル式はレンズ光軸とずれるため好みが分かれるものの、横位置でも縦位置でも様々なアングルで快適な撮影ができて便利だ。

動画
スチル写真をメインにしたG9 PROだが、動画機能ももちろん搭載している。しかも4K/60pで記録可能だ。しかし連続記録時間は10分。それ以外の動画モードでは29分59秒までの制限がある。
また記録時間無制限の他、4:2:2/10bit記録などプロ仕様動画機能を持つGH5と比べると、G9 PROの動画機能はシンプルだ。それでも基本は写真撮影だが、時々動画も楽しみたい、という人には十分なスペックと言えるだろう。

通信機能
スマートフォンとはLUMIXの専用アプリ、Panasonic Image Appで接続が可能。
従来のLUMIXではWi-Fiで接続していたが、G9 PROはWi-Fiの他に、新たにBluetoothにも対応。常時接続ができるため、スピーディーでスムーズなリモート操作や画像転送が可能だ。しかもWi-Fiは5GHz(IEEE802.11ac)に対応し、電波干渉が少ない。

ハイレゾモード
G9 PROの強力な手ブレ補正機能を活かし、超高精細な写真が撮れるハイレゾモードを新搭載。
通常は2,033万画素だが、ハイレゾモードではセンサーをシフトさせながら8回撮影して合成することで8,000万画素相当になる。商品や建物など、動きがない被写体を高解像で撮影したい場合に有効だ。

4K/6Kフォト
パナソニックお馴染みの4Kフォトは、30コマ/秒の他に超高速の60コマ/秒も搭載。4Kプリ連写も可能だ。一瞬のチャンスを8Mピクセルで切り取る。

さらにGH5で話題になった、18Mピクセルで30コマ/秒の連写ができる6Kフォトも可能。こちらも6Kプリ連写を装備する。
A3ノビを超える大伸ばしプリントなど、一瞬を高精細に表現したい場合に使いたい。G9 PROは電子シャッターの約20コマ/秒、約60コマ/秒の連写と併せて、多彩な連写機能が選択できるようになった。

端子類
各端子は本体左側に集中。上からマイク端子、ヘッドホン端子、HDMI端子、USB端子が並ぶ。HDMI端子はType A。USB端子からバッテリーの充電が可能だ。

記録メディアスロット
メモリーカードスロットは、SDカードダブルスロットを採用。どちらもUHS-II対応だ。順次記録やバックアップ記録、RAWとJPEGの振り分け記録が選択できる。

バッテリー
バッテリーはDMW-BLF19が付属。GH5と共通なので、GH5ユーザーがG9 PROを手にしても共用できる。CIPA基準の撮影可能枚数は、モニター使用時約380枚、ファインダー使用時は約360枚。
バッテリー室のアップ
バッテリーチャージャーDMW-BTC13も付属し、ACアダプターとチャージャー専用のUSBケーブルに接続して充電する。
充電器とバッテリーのアップ

ストラップ
オプションでは、新たに機動性を重視したストラップ、「ショルダーストラップDMW-SSTG9」が登場。厚手のパッドで長時間の撮影でも肩や首への負担を減らし、Dリングでスピーディーな長さ調節も可能。
さらにストラップ本体はバックルで脱着でき、アングルや三脚使用時など、撮影シーンに応じた使い方ができる。しかもバックル同士で連結させると、ハンドストラップにもなる。

まとめ
パナソニックのハイエンド機というと、動画機能重視のイメージが強かった。また4K動画を活用した4Kフォトや6Kフォトもあり、やはり動画ベースの印象だ。
だがG9 PROは高速AFや高速連写、さらに大型のファインダーを持ち、瞬間を捉えるという写真ならではの魅力を追求したモデルに仕上がっている。
次回は、実際にG9 PROを使用しての作例をお届けする。
藤井智弘
(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。2016年9月より、デザインオフィス株式会社AQUAに所属。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。

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投稿者 semorina

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