左から角和憲氏(商品企画担当)、岡本晃宏氏(商品設計担当)、栃尾貴之氏(商品設計担当)
35mm判フルサイズのLUMIX Sシリーズおよびマイクロフォーサーズ機で、「生命力・生命美」を核に製品を展開していくと宣言したパナソニック。2018年のフォトキナにおけるLUMIX S1/S1Rの発表は大きな話題を呼んだが、このフルサイズSシリーズもスタンダードモデルのS1を核に、高解像度モデルのS1R、映像用途に特化したS1H、小型化により親しみやすさが増したS5と、布陣が整ってきた。いま、フルサイズシリーズとマイクロフォーサーズ機で一貫した絵づくり思想を採用していく意味とはどこにあるのだろうか。LUMIXシリーズにおいて同社は今、どのような思想で画質設計を進め、今、そしてこれからのカメラで、どのような撮影体験を提供していきたいと考えているのか。「生命力・生命美」の深淵を改めて問うことで、同社がこの概念的なテーマにどのようにアプローチしているのかにも迫っていった。
画づくりの核「生命力・生命美」とは
――LUMIXシリーズは“絵づくりを核にして製品を展開していく”という宣言が記憶に新しいところです。ひょっとすると開発サイド的には珍しくないのかも知れませんが、受け手側としてはあまり聞き慣れない方法論だと感じました。その端緒とされているLUMIX G9 Pro(以下G9 Proと表記)以降で採用した新しい絵づくりとは、どのような目標を掲げているのでしょうか? またコンセプトを固めていったキッカケについてもお聞かせいただけますか?
角 :LUMIXの絵づくり思想を一言で表現しますと「生命力・生命美」となります。これはご認識いただいているとおりG9 Proの時に定義・発信したものです。キッカケとなったのは、静止画ハイエンドモデルであるG9 Proの製品化にあたって写真家の方々にヒアリングを行ったところ、「モデルごとに絵づくりが違うと困るので一本筋の通った思想をどのモデルにも共通する考えとして適用して欲しい」という要望があったことです。
角和憲氏(商品企画担当)

G9 Pro以前の画質設計にはそうした一貫した絵づくりの考えが全くなかったワケではありませんが、しっかりと定義化をしていた訳ではありませんでしたので、「一本筋の通った絵づくり思想」を構築すべくプロジェクト化して、製品を展開。G9 Proで実現したものになります。

――「生命力・生命美」というコンセプトは明快なようで、実は漠然としている、というのが個人的な感想です。と言いますのも生命力の「力」というワードはとてもイメージしやすいですが、一方で生命美の「美」というワードについては感じ方とその方向性が人それぞれあり、曖昧模糊としたものだという考えがあるからです。もう少し噛み砕いて説明して頂けますか?
角 :「生命力・生命美」では、色は勿論、背景を含めて被写体以外もしっかりと写し撮る、人であれば血の通ったぬくもりを含めて全てを写し撮り表現する、というイメージをもっています。その“壮大さ”であったり、“被写体をしっかりと描写する”ということ、そういったものを一言で表したものが「生命力・生命美」になります。
「生命力・生命美」思想に基づいて開発されたカメラ「LUMIX G9 Pro」

――お話を伺っていてなお、とくに「生命“美”」という言葉、具体的には「美しい」という字を用いた理由が見えてきません。というのも、私はG9 Pro以前のカメラで「美しい表現」が出来ていなかった、または「美しさが足りなかった」とは考えていないからです。既存の製品でも自然で美しい表現はすでに実現できていたように思います。改めて定義し直した「美しさ」には、どのような意味が込められているのでしょうか?
角 :ものには役割があり、その一生を全うする過程の中で様々な変化が起こります。例えば、錆をイメージしてみてください。若々しさや瑞々しさとは対極にある状態ですが、一方で重ねてきた時間ですとかバックグラウンドを垣間見る一端にもなります。それは、錆を含む被写体(状態・過程)が持つ魅力のひとつです。そういった被写体の全てをしっかりと描写することで、それが重ねてきた年月といったようなバックグラウンドまでをも含んで表現したい、という想いを込めています。ちなみに日本では「生命力・生命美」というワードで発信していますが、海外では「Capturing It All」という表現になっています。
――「Capturing It ALL」、“全てを写し撮る”という言葉を聞いて腑に落ちました。ちなみにG9 Proより以前の製品ではどのような設計思想で画質を調整していたのでしょうか?
角 :G9 Proより前の機種では“被写体がもっている質感をしっかりと描写していく”というコンセプトで画質設計を行っていました。
岡本 :いま角の話にあったように、G9 Pro以前の機種では“質感描写”が画質設計のコンセプトでした。というのもLUMIXシリーズの根底には「被写体らしさを写し撮りたい」という想いがあります。この“被写体らしさ”とは、それぞれが持つ“魅力”といえばイメージしやすいでしょうか。
岡本晃宏氏(商品設計担当)

岡本 :被写体それぞれの魅力には色々なベクトル——例えば力強さですとか、いわゆる美しさなど様々なバリエーションがあります。そして、それは被写体によって表現したい方向も異なっています。そうした魅力を表現するためには「ありのままをしっかりと写し撮る」という質感描写が重要である、と考え研究・開発を続けていました。
その様々なバリエーションの魅力を表現するコンセプトアイデアを検証した結果として、被写体が持つ存在感や力強さを「生命力」、瑞々しさや美しさを「生命美」という言葉で表現しようということになった、という経緯があるわけです。
しかし、一言では言い表せないということで「生命力・生命美」という2つの言葉をコンセプトにしています。先程の「美しさ」という問いに対する回答に繋がる部分になりますが、ありのままを写し撮る“質感描写”という忠実性がベースにあり、その上で被写体らしさをより表現するため、撮影した時の感動という記憶にも働きかける「生命力・生命美」というコンセプトに昇華させています。
栃尾 :生命力という言葉はある程度イメージしやすい言葉かと思います。一方で美しさという尺度は、ご指摘のとおり多岐にわたり、例えば鉄が錆びて朽ちていく様子の儚さといったように、精神的な美しさをも内包している場合があるなど、そのイメージが有している幅はさまざまです。生命がもつ煌き、つまり「生命力」という言葉だけでは表現しきれないものについて「生命美」というフレーズを当てはめることでコンセプトを明確化しようとしました。
栃尾貴之氏(商品設計担当)

――ちなみに「生命力・生命美」というコンセプトが定まった際に、皆さんのイメージが同じベクトルになるようなイメージボードやコンセプトボード、または合言葉のようなものはあったのでしょうか? と言いますのも、表現という数値化の難しいもの、しかも新しいコンセプトに対して共通の目標がないと実現が難しいのでは? と思うからです。
岡本 :G9 Proで新しい画質設計に着手した段階では目標画像というものはなく、まさに手探りの状態からのスタートとなりました。
そこで我々が今までやってきた絵づくりを発展し深く掘り下げ、被写体らしさをより表現するためにどうすれば良いのか、ということについて、シーンごとに評価と検証を重ね、どの要素を進化すべきなのかを繰り返し議論することで、コンセプトを練り上げていきました。
このディスカッションはいろいろな画像や写真をみながら進めていきましたが、一番多く出た意見は「実際にはどうなの?」という言葉でした。
――実際には、というと?
岡本 :つまり、その写真は「撮影者がどういった気持ちで被写体と向き合い、どのように表現したかったのか?」ということです。
当然、それは写真を見ただけでは測りかねることです。ですので、サンプルの収集だけではなく、自分たち自身が実際に撮影地に行って撮影し、そこで感じた事を写真からも感じられるか? ということに注目する、という方法をとりました。
様々なカメラで撮り比べた写真を見比べ、何が足りていて何が足りないのかを繰り返し議論して絵づくりに反映させていくアプローチです。絵づくりを掘り下げていく中で重要視していたのは、そうしたアプローチから見えてくる感覚でした。
そして実際に撮影した各シーンや、グラデーションといった要素ごとにリファレンス機を作り、最終的に統合することで狙い通りの再現が出来ているかをプロジェクトのメンバー間で共有し、作り上げていく流れでした。それらを統合したのが現在の「生命力・生命美」というコンセプトというわけです。
角 :「生命力・生命美」というコンセプトは最終的には1冊の本としてまとまるまでになりました。社外秘のため、残念ですがお見せすることは出来ませんが、“どのような視点で、どう表現するのか?”という事をまとめています。
G9 Proからの進化点
――G9 Pro以前の画質設計と比較して、「生命力・生命美」を掲げた画質設計では技術的な進歩や革新があったのでしょうか。例えば、何か新しいパラメーターの追加ですとか、新しい概念の画像処理などのような。
岡本 :従来のLUMIXシリーズでは、どちらかと言うと「忠実描写」に軸足を置いた比較的あっさりとした画質としていました。ですが、G9 Pro以前のカメラでも徐々にではありますが「記録よりも表現」というコンセプトを取り入れるようになり、ある程度の「味付け」を加えるようになっていました。
ここでいう味付けとは、つまり被写体の魅力を表現するために、“ある部分を強調する”、ということです。記憶色の要素を加味する、と言い換えても良いかもしれません。しかし強調することで失う部分があってはなりません。G9 Proではより確固とした思想をもって味つけを加えているわけですが、その背景にある概念が「生命力・生命美」なのです。ですから、革新というよりは地道な改善というイメージが当てはまるかな、と思います。

インタビュー
LUMIX G9 PROからスタートした「絵作り思想」とは?
“生命力・生命美”とは何か?それを実現した方法と取り組み、そして今後について
2018年2月16日 00:00
栃尾 :記憶色の要素という話が岡本からありましたが、例えば青空を写しとるシーンでは、従来機ですと“青空をキレイに再現する”という着眼点で設計していました。しかしSシリーズではその着眼点が“青がグラデーションによってどんな色に変化していくと自然な奥行き感を感じられるのか、という視点に変わりました。

筆者撮影
LUMIX S5 / LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6 / プログラムAE(F8・1/500秒・+0.7EV) / ISO 100

つまり「青空のグラデーションの変化をリアルに描写する」という意識を持ち、色の明るさに応じた色相変化をより細かく制御した方がよりグラデーションを表現できるのではないか? と考えて色の設計を緻密に追い込んでいるのです。コントロールできる色のパラメーターを少しずつ見直しているのですが、画像処理エンジンの進化によって、より自然な奥行き感を表現できるようなりました。

筆者撮影
LUMIX S1 / LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.+DMW-STC14(99mm)/ プログラムAE(F5.6・1/125秒・-0.3EV) / ISO 125

――リアルな色再現をするために、シーン認識の技術は応用されているのでしょうか? というのもLUMIXシリーズはシーン認識やAI活用による被写体認識などの高い技術も有していると思っています。そういった技術が色再現や絵づくりにも影響しているのでしょうか?
岡本 :シーン認識やAIによる被写体認識技術は色再現には影響していません。AE/AWB/AFといった絵づくり以外の部分では活用していますが、現時点では絵づくりには影響していません。

LUMIX Sシリーズで用いられている空間認識技術(DFDテクノロジー)によるAF制御の概要。この技術と被写体認識技術により被写体認識・AF精度を高めている(LUMIX S1Rの商品説明Webページより)

もちろん議論は続けていますが、絵づくりにそういった認識技術を動的に反映させることがフォトグラファーにとって有益なことなのか? という点が現時点で結論を出せていないから、というのがその理由になります。
ですので、カメラを表現の道具として活用して頂き、ユーザーがそれぞれの思想で表現をコントロールしてもらう、というのが現状のカメラづくりになります。
フルサイズへの感動が開発のモチベーションに
――絵づくりに関する資料を見てみますと、Sシリーズでは「消失感」の再現に取り組む、とあります。ここでいう消失感とは何なのでしょうか? また、その実現にはどのような工夫があったのかも教えてください。
岡本 :消失感の話をする前に、湿度感という言葉について説明しなければなりません。新たにフルサイズ機を出すのにあたって議論を進める中で、あるフォトグラファーから“湿度感はマイクロフォーサーズでは表現できない”という指摘がありました。
それまでの我々は「湿度感」という言葉を持っていませんでしたので、まず「湿度感とはなにか?」という検証からスタートしました。具体的には、過去に撮りためた湿度を感じさせる被写体ですとか、雲海や霧などを自身の眼で実際に見て、撮影し、画像を評価していく、というアプローチをとりました。その中で、“湿度感とは階調性・グラデーションに関わる要素と解像性・ディティール再現性に関する要素で表現されるものである”という結論に達しました。
解像力やコントラストの変化を繊細に写し撮ることで遠くの細かい部分まで解像し、豊富な階調性によって淡いトーンを描写していくことで霞の中に消えていく様子。この消失感が湿度感であると考えました。

――マイクロフォーサーズ機で湿度感や消失感の表現が難しかった理由とは何なのでしょうか。
岡本 :なぜマイクロフォーサーズだと湿度感の表現が難しいのか。我々はその答えを知るためにフルサイズとマイクロフォーサーズの違いを検証していきました。結論としましては、ディティール描写性とグラデーション再現性に大きな違いがあることが分かりました。
35mm判のフルサイズセンサーはそもそもの物理的サイズが大きい(36×24mm)ので、1画素あたりの受光部面積を維持したまま画素数を増やすことが容易です。マイクロフォーサーズのセンサー(17.3×13mm)との比較では、この受光部面積の余裕が良好なノイズ特性につながります。純粋に画素数が多い事もあり、ディティール描写性とグラデーション再現性という2つの情報量がとても豊富ということです。
画素数が多いことと、ノイズ特性——S/N比が良いのでその分ノイズリダクションを極力かけないで済むということ、これらの相乗効果が結果としてディティール感を損なうことを少なくしてくれたことで、自然な表現につながっているのだと考えています。
繰り返しになりますが、LUMIXシリーズはフルサイズでもマイクロフォーサーズであっても、色の表現は同じ方向性で設計と画質の調整を行っています。そのバランス点にはセンサーフォーマットによる違いがありますので、マイクロフォーサーズで実現可能なレベルと、フルサイズで実現可能なレベルの差が、湿度感や消失感の表現力の差になっている、というのが質問の答えになるかと思います。
――開発時にはじめてフルサイズのRAWデータを確認した時にはどんな驚きがあったのでしょうか?
岡本 :我々はマイクロフォーサーズで鍛えられてきました。
一同 :笑い
岡本 :はじめてフルサイズセンサーのRAWデータを読み込んだ際、上質なデータが得られていましたので「これはやり甲斐があるぞ」と沸き立つものがありました。センサーの違いだけでなく、レンズサイズの制約にも余裕があったため、解像力の差も効いていました。まさに、一気に新しい世界がひらけた、という思いがありました。それは、それらを最大限いかすためにはどうすればよいのか? という視点の獲得でもありました。
コントラストや空間周波数に関わるシャープネスのバランスが、どういった状態が最適なのかを探る作業は、さまざまなアルゴリズムやパラメータを試して追い込んでいくものでしたが、泥臭いまでに地道な開発作業であっても、そうした光明がモチベーションになっていました。
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――S1が登場した時、その画質に触れてみて実際のセンサーサイズよりも大きなフォーマットのカメラで撮影したかのような立体感に驚いた記憶があります。ある座談会に参席した折に、S1が話題になったのですが、「マイクロフォーサーズで我慢してきた鬱憤が、全て解き放たれたような画質」というような話でとても盛りあがりました。なので「新しい世界がひらけた」という感覚には共感できるものがあります。この立体的な描写は、先ほどの消失感や湿度感によって得られる感覚なのでしょうか? それとも画素数が増えたことによるディティール再現性の向上が効いているのでしょうか?
角 :まず、Sシリーズで豊富なディテール再現が実現できた要素として、画素数が増えたことがポイントのひとつです。ですが、その良さを最大限にいかす画像処理を行う必要もありました。
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角 :例えば細かいテクスチャの再現性を向上させたい場合、シャープネスを上げるのが手っ取り早い手段となります。ですが、単にシャープネスを上げるとノイジーになったりエッジが強くなったりするので、結果として立体感のある表現にはつながりません。研究の肝はここで、どこにシャープネスをかけると立体感につながるのかが、画質を設計する側の課題となりました。
シャープネスをかけたいところにかけ、かけたくないところにはかけないという制御によって画面でのディティールの見え方を最適化することで立体感を表現できるようにしているのです。そこにこだわって設計していますので、立体感を感じて頂けたことが、とても嬉しいです。
――シャープネスをかけたいところと、かけたくないところの制御によって画面でのディテールの見え方を最適化するとのことですが、そういったシャープネス適用の可否に関わるアルゴリズムにはどのような技術がいかされているのでしょうか?
岡本 :画像の中で被写体が持っている周波数成分やコントラスト等の特徴量を判断して適切な信号処理をしています。ですので、空のようなテクスチャ成分の少ないところにはあまり強調処理を行わず、細部再現のような部分では最適なシャープネス処理を行っています。
栃尾 :より厳密に言うと、シーンや物体を認識しているというよりも、画面内の特徴や要素を判断している、ということになります。
岡本 :さらに言えば、立体感の表現にはグラデーションの再現性がかなり効いているという印象があります。
輝度のグラデーションはもちろんですが、色のグラデーションもまた重要な要素だと思っていまして、中間調はもちろんですが、ハイライトやシャドーにどのくらい色をのせるか、あるいは抜くのか。どのような彩度で表現するのか、といった部分にこだわって調整しています。
――個人的な経験に基づく意見なのですが、滑らかなグラデーションを再現するためには、グラデーションの中にある色は、多ければ多いほど滑らかでトーンジャンプの少ない再現になる、と考えています。
もちろん、その色に方向性の異なる傾きがあると違和感になってしまいます。色が多い方が良いと考える理由を簡単に言えば、ベタ塗りにならずトーンの連続性が保たれるから、ということになります。滑らかなグラデーションの表現ができているフィルムを拡大してみますと、色素や粒子によって様々な色がノイズや斑(まだら)となり重なり合っています。ディザリングに通じるところかと思うのですが、そういった状態のものを適切な距離で鑑賞しますと滑らかな連続性として知覚されます。
そういった理解の上で今のお話を伺ってみると、色のグラデーションのある部分について「彩度を抜く」という考えが出てきましたので「何故?」となっています。その理由をお話してもらってもよろしいでしょうか?
岡本 :ディザリング効果(少ない情報に対してノイズ成分を加えることで情報を補完して見えるようにすること)につきましては、例えば青空のグラデーション部についても純粋な青よりも微細なカラーノイズや粒状がある方が、何となく心地良く感じられる、という知見を我々も得ています。同様に粒状が質感描写へ何かしら寄与しているのだ、という解釈を豊田さんもされているのだと思います。
非常に微妙なレベルの話になりますが、JPEGに落とし込むと階調性はRGBの各色が256階調しかありませんので、どうしてもハイライトやシャドーの一部でベタッとした描写になってしまう部分が生じます。そのベタッとしてしまいやすい色の部分をごくわずかに抜くことで階調性を維持する、という考え方になります。また、そうすることで画像全体としての立体感が出てくる効果もあると考えています。
――先程シャープネスに関わるお話がありましたので、24MPのS1とS5がローパスフィルターレス仕様となっている理由を教えてください。
岡本 :解像感とモアレのバランスを考慮し、24MP機ではローパスレス仕様としています。で(47MPのS1Rもローパスレス仕様です)一方でS1Hは動画でのモアレ発生を抑制するためにローパスフィルター有りとしています。
LUMIX S1H
カメラミラーレスカメラパナソニック

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――パナソニックでは、例えばニコンのミドルレンジシャープなどのようにシャープネスを適用したい成分に応じて任意でパラメーターを変える事は出来るのでしょうか?
岡本 :パナソニックでは「シャープネス」という項目ひとつで調整するようになっています。
シャープネスのほか、コントラスト、ハイライト、シャドウ、彩度、色相を、それぞれ±5の範囲で設定できる。画面はLUMIX S1Rのもの

後編では、特徴的なモノクローム表現などのフォトスタイル設計について掘り下げていきます。
豊田慶記
1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。

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パナソニックが目指す「生命力・生命美」とはどのような画質設計なのか(後編)
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投稿者 semorina

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